The Tales of Two Firsts

Eric Schmidt が最初に mobile first と言ったのは 2010 年らしい。興味深いことにリンク先のインタビューには Android が一言も出てこない。Sundar Pichai が AI first と言ったのは, 探した範囲だと 2016 年が最初。これらは自分の記憶ともだいたい一致している。

Mobile first がなんなのか、最初は誰もわかっていなかった。モバイルウェブをがんばれという話にも思えたし、アプリをつくれという解釈もあった。数年のちようやく「モバイルのアプリとしてサービスインする前提で製品をデザインする」のが mobile first だと人々は理解するに至ったが、新製品とかそんなにないので、まずは既存サービスのアプリをちゃんとするのが現実的な行動となった。アプリはみな最初はなんとなく Android 版をがんばっていたものの、世界の半分は iPhone であるという現実に目覚め iOS もがんばるようになった。新機能も、だんだんと(本来の意味で)mobile first なものが増えていった気がする。

自分はモバイルと一番縁遠いウェブブラウザの世界からモバイル OS 部門の周辺アプリというモバイルの内側に異動したせいで、いちばん興味深い「ウェブ出身だけどモバイル化していったサービス」を間近でみていない。だから上のような表面的な変化の裏で実際にどんな苦労があったのかは知る由もない。でも "mobile first" だなんて、大企業の戦略にしては随分と雑な代物だったとは思う。現場は混乱したことだろう。

Mobile first の成功は製品によってまちまちというのが自分の主観的評価。Mobile に倒すのが向いているサービスは mobile first によって飛躍したし、あまり mobile に向いてないサービスは苦労の割に価値を引き上げられていない気がする。

ただ、総体として mobile first はまあまあ成功した。まったく新しい大ヒット製品を生むことはなかったにせよ、デスクトップとウェブの時代の成果はまあまあモバイルに持ち越されたし、地図のようにモバイルでこそ本領を発揮したものもある。今日ではたくさんの人々がそれらウェブ出身サービスをスマホ経由で使っている。"Mobile first" という掛け声の雑さを考えると驚くべき成功だと個人的には思う。


AI first の成否は、自分にはまだ見えない。AI first が何を意味するのかも、しょうじきはっきりとはわからない。人々は大きく分けて三つの方向性を見出しているように見える。

一つ目は "ヒューリスティクスを捨てて learn しなさいね" という ML first とでもいうべき路線。適当に計算したスコアを足し合わせてなんらかの判断を下す労働集約的なアルゴリズムは data から learn する方法にとって変わられ、もともと ML だった人々も representation を learn する deep な方向を目指す。個人的にはこれがいちばんまともな AI first の解釈だと感じる。

二つ目は有り物の NN モデルをもってきてなんかする路線。NN first とでもいおうか。わかりやすい例だと segmentation を使った写真の疑似ボケだとかマンガの吹き出しアニメーションだとか。あるいは活字おこし対応音声レコーダとか。棘のある言い方をすると PM による AI first とでも言おうか。よりがんばる例としては画像検索があり、そこまでいくと段々と ML first に近づいていく。

三つ目は AI first を Assistant first と解釈し、Alexa Skills 的な音声コマンドに対応する路線。個人的にはこれを AI と呼ぶのに抵抗があるが、pop culture 的 AI の解釈に一番近いようにも思える。

どれも一理あるといえばある。しかし互いにだいぶ違うものである。解釈のブレ幅に AI first という掛け声の雑さを見ることができる。だいじょうぶなのか不安。


Mobile first はなぜそれなりにうまくいったのだろう。たぶん mobile first にはたまたま「ユーザのいるところに行け」という圧倒的正しさの含意があり、それがコンシューマ向け製品にとして良い結果につながったのではないか。

同じ含意を持つ AI first の解釈は assistant first. 自分の直感とは裏腹だけれど、voice devices には新しいユーザがいる、あるいは従来のユーザと新しい接点を持つことができるのは確か。

煮えきらなさを説明するのは mobile と voice devices の現状のマーケット規模の違いだろうか。Alexa built-in デバイスは 100M くらい出ているという。現状のスマホの MAU すなわち約 Android 2.5B + iOS 1.5B = 4B の 2-3% くらいの数しかない(しかも MAU と sales figure を比べるのは雑すぎ)。だいぶ投機的といえる。ついでにモバイルで iOS を真面目にやる程度に Alexa も真面目に相手した方がよいのでは・・・とも思う。余計なお世話ですが。

AI first の別解釈たる ML first は堅実に成果を出している気がする一方でプログラマからすると世の中 ML と縁遠い仕事も多く(たとえばウェブやアプリなどの frontend 開発)、若干ニッチに思える。そして ML first する要素を持たない人々が苦し紛れに AI first をすると NN first になってしまい、ちぐはぐさが生まれる。

そんなわけで自分は ML first 以外の AI first には懐疑的。ただ自分の予測がはずれ AI first で勤務先が潤ってくれればその方が嬉しい。悲観が外れ, 何らかの形で "AI first まあまあ正しかったね" と思える日を待っている。

まあそれはさておき企業の標語で XX First は雑すぎだよ。次はどうすんだ。Quantum First か。