音の鳴るおもちゃとはてなくん
音の鳴るおもちゃが苦手で、子にはあまり買い与えていない。
楽器ではなく、 ボタンなどのスイッチを押すと録音されて効果音が再生されるようなやつ。同時にランプが点滅したりもする。楽器ではないと書いたけれど、楽器やオーディオ装置を模した形をしていることも多い。
ランダムに音が鳴るのも苦手だし、プラスチッキーな外観も好きに慣れない。例外としてボタンを押すと短い歌が流れる "sound book" を 2-3 冊持っている。別に何らかの criteria を満たしからではなく、これらをいくつか買ったあとでもうたくさんという気持ちになった。強いていえば sound book は嵩張らないところがマシ。
自分たちはよくあるテックな親としてスクリーンも控えめにしか見せていないので、子は音に耐性がない。音の鳴るおもちゃ、にかぎらず音というものにはだいぶ sensitiveで、mall とかにいくと全方向から鳴る音にキョロキョロしている。過敏すぎが少し心配ではある。
そんなかんじで音の鳴るおもちゃのない家に「こどもちゃれんじ」の教材デバイス「はてなくん」がやってきた。別名タッチペン。ステルスインクを読み取るスキャナで、教材の冊子のページ内に埋め込まれたマーカー ID を読み取ってなんらかの録音を再生する。たとえば動物の絵をスキャンするとその動物の鳴き声が再生される。
さらにデバイス内に簡単な state を持てるらしく、クイズの設問マーカーをスキャンしクイズを再生したあとそのクイズの正解をスキャンし設問に答えることができる。たとえばページ左上のしまじろうアイコンをスキャンしたあとページ全体に描かれたモブから彼をさがしてスキャンすると該当キャラのよろこびの声が再生される、といったことできる。
タッチペンの「はてなくん」は音の鳴るおもちゃである。しかもかなり出来が良い、つまり子供を引きつける力の強いやつ。まず再生される声のデータが多い。見開き 5 ページくらいの冊子の各ページに 10 パターン以上の音声が再生される。先に書いた state を駆使してかなりインタラクティブだし 、たまにランダムで自分のテーマ曲を歌う easter egg まである。
コンテンツにはもちろんベネッセの稼ぎ頭「しまじろう」が登場する。しかもそのコンテンツが毎月更新される、というか毎月新しい冊子が届く。サイトによると 10 ヶ月分で合計 4700 音声らしい。そこらへんで売ってる嵩張るばかりの音の鳴るオモチャとは格が違う「面白さ」、刺激の強さがある。
開封した翌日、普段は寝起きの悪いその子は朝起きると「はてなくんで遊びたい」といった。昼寝から置きた時も、ふだんなら「ぶどうたべる?」とかいっておやつの力で意識を呼び戻すところ「起きてなにしたい?」ときいたら「はてなくん」と答えた。じゃあ遊ぶかと一緒にあそんでいたら・・・
おしっこをもらした。ここのところトイレトレーニングは順調で半月以上もらすことがなかったのに、タッチペンに夢中すぎて尿意を無視してしまったらしい。だいぶショック。文章にするとファニーだけど当事者にはおおごとなのだよ。
タッチペンの楽しさ、刺激の強さ、あるいは「エンゲージメントの高さ」は親である自分を不安にさせる。同類の刺激の強いおもちゃはずっと避けてきたのに、教材の顔をしたこの刺激テクノロジが突然乱入してきて焦る。
自分の中にある「音の鳴るおもちゃ」への抵抗は主に aesthetic なものだとなんとなく思っていたが、それだけでないことに気づいた。この抵抗は「スクリーン」への忌避に通じている: 当事者(子)の effort に対する reward としての刺激が強すぎる。簡単にヒマが潰せすぎる。
「音の鳴るおもちゃ」を選ぶ世の中の親を非難したいと自分は思っていない。スクリーンをはじめとする刺激物の影響に確固たる結論は出ていないはずだし、どのみち子育ては各人の判断でやるものだから。ただ、自分たちの中の standards や boundaries はなるべく一貫させたい。タッチペンはその壁を激しくぶちぬいてきたので動揺している。タッチペンにはスクリーンと同じような扱いが必要なんじゃないか。
というか、そもそも与える必要はあるのか?
教材である以上なんらかの学習効果を期待しているわけだが、その効果はこの刺激のコストに見合っているのか。今回のコンテンツを見る限りその見返りは感じない。他の本やトイで足りてんじゃね?
ウェブで世の親の声を眺めてみると、言語の獲得を助けるのが主要な効能として評価されているようす。つまりタッチペンで遊んでいたらしゃべるようになった、字が読めるようになった、というようなもの。幸い子はすでにだいぶしゃべるしひらがなも読めるようになってきたので、その点でタッチペンの助けは要らない気がする。
公式サイトはそのほかの効能ジャンルとして「数」「図形」「論理」「好奇心」を挙げている。そんなに高い効果あんの?コンテンツからそういう作為・・・・という書き方は悪意がありすぎるけれども、意図は感じる。しかしそんな思い通りにいくの?
他の教材なのかおまけなのかよくわからないコンテンツたちも、やはりテイストが親たる我々の趣味とあまりにも違い、その割に子供は夢中で、しかし教材としてのユニークな価値というものは感じられない。(世の中ユニークな教材なんてものはほとんどないだろうから、この批判がフェアでないのはわかっている。気分を書き下してるだけです。)
この受け入れられなさが刺激が強すぎるという「子のため」の判断から来ているのか、テイストの不一致という「自分のせい」なのか、冷静には見極められない。ただ親としての居心地の悪さがどうにも辛いので、夫婦協議の末に解約した。
ウェブを眺めてもタッチペンに対して自分と同じような不満は見つからない。しかし音の鳴るおもちゃへの批判はあるはずなので、やや不思議。きっと自分と同じような指向性の人はそもそもこの教材を購読しないのだろうね。不用意だった。ただ「こどもチャレンジ」がどういうものかわかったのはよかった。高い勉強代、あるいはうかつ税となった。