過保護の本
読書記録:
おまえらは学歴にこだわりすぎだし過保護すぎる、厳しく、しかし愛のある親になろうな・・・という話。こう書くと退屈な本みたいだが、なかなか面白かった。
まず書いているのが Stanford の元 freshman dean (新入生担当課長みたいなかんじかな) である。そして著者自身 Palo Alto に住む二児の母でもある。超高級住宅街で子育てする学歴社会頂点勤務のひとが「学歴にこだわりすぎる」というこの圧倒的居心地の悪さが面白い。
本書の前半 1/3 は過保護な親の現状に関するレポート。なのだが、書かれている過保護っぷりがやばい。アメリカ社会共通のダメさ (helicopter parenting - 子がどこにいくにも車で連れてく)はそれなりに共感があるし、公園のような公共空間の過剰な安全指向についても身に覚えがある。しかしそこから先はアホかと呆れる話が続く: 子供の宿題をやる親、大学にだす出願エッセイを書く親(および代行業者)、修学旅行についてくる親、一日連絡がとれないと大学に連絡をよこす親、子の職探しをする親、職場の上司に人事考課の苦情を言ってくる親など、エクストリームな逸話が多すぎて他人事ながら面白い。アメリカの金持ちはアホだな・・・という気持ちになる。結果、そうした過保護が生み出す問題(子のうつ病、親の育児鬱、study drug 中毒など)について議論する中盤 1/3 も半分以上他人事に感じられ、がんばってくれやと冷やかしながら読んだ。ただ anecdotes としては面白かった。
後半 1/3 は、そうした現状を脱するための指針を議論する。ここは狂っていない upper middle 家庭向け parenting book guide といった体裁で参考になった。書き手はさすがによく取材というか調査しており、参考文献がとても充実していて良い。紹介されている本を何冊かは読むことになろう。議論されている指針自体も前半を踏まえると割とまとも(平凡ともいう)で、我々夫婦の感覚とまあまあ近い気がする。プロキシ言語化として役に立ちそう。
ただ最後が「Stanford と Harvard と Yale 以外にもいい大学は色々あるからこのへんのウェブサイトを参考にして探してくれよな」みたいな話でおわっており、アメリカの大学進学率何パーセントだよ主語でかいな、という白けはあった。高学歴の呪いの根深さを感じてしまう。いや Stanford も Harvard もすごいと思いますけどね・・・・。Amazon のコメント欄も絶賛と白けに分断されている。こんなところにも class divide.
しかし我が子の避けがたい helicopter parenting という現実をみると、アメリカの学校教育システムや社会そのものの変化もまた異常な過保護を生み出す何らかの避けがたい構造的な圧力を持っているのではないかと不安になる。10年後アメリカにいたとして、自分も気がついたら子の所在を GPS でトラックしつつ宿題をやっちゃったりするのではないか、巻き込まれるのではという恐怖。
自分にはアメリカ学校生活への無知から来る不安があるので、それを払拭するためにもそのうち何らかの調査をしなければと思った。