How It's Been Ending (3) - Downsizing

ここまで書き忘れてたけど気になっていたことを思い出した。

ハードウェア集積度アップの歴史はダウンサイジングの歴史でもある。ハードウェアは小さく安くなり、イノベーションのジレンマがおこる。2008 に iPhone が登場し、コンシューマ向け計算機のダウンサイジングがおきた。Moore's Law がおわるとこのサイクルもおわるのか?

PC はある時期まではガンガン値段が下がっていったが、下げ止まった。むしろハイエンドはちょっと値上がりしてる。モバイルもハイエンドは値上がりしている一方で、PC と比べると値段の下落は最近まで続いていた。OLPC が 2005 年に夢見た $100 laptop は $50 smartphone という形で商業的に実現している。 ただ、さすがにもう値下がりしなそう。

Moore’s Law による集積度向上が続いたのなら、このあと更に小さいコンピュータが登場するはずだった。しかし CPU はもう(指数的には)速くならない。既存のフォームファクターは色々な改善を寄せ集めてがんばればいいとして、桁違いの計算性能がもたらすはずだった新しいフォームファクターはどうなってしまうのか。

Apple Watch みたいな画面つき時計や各社の喋るスピーカーは新しいフォームファクターの例である。(IoT みたいなエンタープライズ方面はもっと色々あるのかもしれないけれど詳しくないので触れないでおく。)あいつらは半導体業界の進歩が生み出した時代の子なのか?それとも半導体業界の停滞を押し切って出てきた、ちょっと無理のある存在なのか?

時計とスピーカーは同列に議論できない気がするので別々に考えてみる。

Smartwatches

コンシューマ向け計算機のダウンサイジングという点で post mobile の筆頭にいたのが時計だった。スマート時計は Apple Watch が一強で、そのほか Fitbit などの雑魚っぽいのがいるという理解。自分は Fitbit を使っている。こいつに可能性を感じるのはわかるが、どうにも遅い。ゆこっぷ(奥様)がつかっている Apple Watch をみるとだいぶマシだが、やはり遅い。

iOS 開発者の話とかを読んでいても、時計アプリは速度とかメモリが可能性の上限を決めているように伺える。今後時計の CPU は速くなるのか。ある程度はなるだろうが、指数的には進歩しないだろう。バッテリーが大きくなる様子もないからモバイル初期のような勢いも期待できない

... といっても Apple Watch はすでに 64 bit dual core だし Snapdragon も 4 core らしいけど。Galaxy Nexus (2011) くらいのイメージ。思ったより速い・・・。ただバッテリーの小ささを踏まえるとスペック上の性能を発揮できる時間はスマホ以上に限られていて、プラットホームもなるべくアプリを寝かそう殺そうとしてくるであろう。

時計のバージョンアップにも省電力志向は反映されている: 汎用アプリプラットフォームとしてより Fitness への特化を進めている。用途限定の省電力チップを足しセンサ情報を処理したりする。こうした用途限定ハードウェアではサードパーティのアプリのかわりにプラットホームの中の人が書いたコードが重要な役割を果たす。アプリはなんらかの集約済みデータにアクセスできるだけ、みたいな世界。

Smart Speakers

スマートスピーカーは時計よりでかいし給電もされるから、理論上はスマホと同じかそれ以上にパワフルになりえる。しかし収益モデルの違いなどから価格が安く、結果として CPU もケチられている。この Wiki によれば Echo Dot とかは MediaTek の ARM 1.3GHz 4 core. 上の Snapdragon Wear と同じクラスっぽい。

そしてどのみちアプリ開発者にはアクセスできない... が Alexa Built-in のデバイスをつくるために Amazon と提携するという路線があり、そういう意味で open platform ではある。ただ Echo 以外で Alexa 入りのキラーデバイスみたいのは聞いたことが無いな。

時計と違ってセンサーもあまりないし、Alexa デバイスをつくりたいならプラットホームは least common denominator になりがちで、時計のように小さいなりにがんばった SoC がやってくる期待は今のところなさそう。

Observation

コンシューマ向け Post-Mobile のフォームファクターである時計とスピーカを眺めた。これらはまあまあ売れているが、次なるプラットホームの決定版という勢いはない。今のところニッチに留まっている。

では iPhone のようなまだ見ぬブレイクスルーによってこれらがニッチを抜け出す日は来るのか。わからないけれど、半導体の進歩はあまり助けてくれなそうではある。Edge TPU や NPU のような省電力 DSA が降りてくる展開を当事者は期待しているかもしれない。しかし時計やスピーカに乗った DSA が中の人以外からアクセスできるようにはならなそうなので、自分のような外野は遠くから健闘をお祈りしていればいいかな。

そういうハイテクとは関係なく、1.3GHz x4 core の CPU はスピーカや時計に使うくらいしょぼいものであるというのは個人的な学びだった。年寄りなせいで 1GHz とかいまだにすごい速く感じてしまう。ARM かつ省電力のプロファイルだからという面はあるにせよ、これらの「遅さ」を内面化できないと危うい。ラズパイとか触った方がいいかもなあ・・・。RP4: Cortex-A72 1.5GHz x4 core.

付随する問いとして、2011 年のスマホ相当の CPU を載せている 2019 の時計やスピーカ, 8 年後には 2019 年のスマホ相当の CPU を載せているのだろうか。Moore's Law の slowdown が事実ならこの期待は満たされないわけだけれど、なんとなくそのくらいは速くなりそうじゃね?2027 年だよ? すごい未来じゃん?

未来のことはわからないね。