Link: Blow to 10,000-hour rule as study finds practice doesn't always make perfect | Science | The Guardian
モダン根性論ポップカルチャーのはしりのひとつ Outliers (5000 Amazon reviews!) が論拠としている 1993 年の研究を replicate しようとしたけどだめでした、という研究の話。ふーんとリンク先の論文も眺める: The role of deliberate practice in expert performance: revisiting Ericsson, Krampe & Tesch-Römer (1993) | Royal Society Open Science. 割と面白い。
- 元研究、およびこの研究は great, good, less good の violinist をあつめて比較している。これどうやってあつめるかというと: Great と good は一つのエリート音楽学校からサンプルする。具体的には学校の教師にノミネートしてもらう。Less good はエリートではない音楽学校から適当にサンプルする。
- モダン根性論用語になった "deliberate practice", 具体的には "teacher-designed practice" だった。対にあるのは self-guided practice らしい。Deliberate practice ってなんとなく自分で工夫して負荷を高めるもののように考えていたけれど逆だった・・・というか、もともとは Delibrate practice の定義は存在しなかった、あるいは主張に応じてコロコロ変わった、らしい (4.1)。この論文は元論文著者 Ericsson の雑さを強く批判している。
- 練習以外の activities についても時間の情報を集めている (table 3). たとえば "意識の高い会話 (professional conversation)" みたいのもはいってる。
この論文のキーとなる発見は
- Good および Great 勢は Less Good 勢より圧倒的に練習している。
- Great 勢と Good 勢は practice も teacher-designed practice も大差ない。(むしろ great 勢の方がちょっと少ない。)
この論文の趣旨はオリジナル論文の主張の replication なのでそのほかの点については細かく議論していないが、外野としてグラフを眺めるとなかなか趣深い。特に "3.5. Retrospective estimates of practice during development" のセクション、自己申告による練習時間の経年変化。
- Best 勢は人生序盤 (8 歳くらいまで) の teacher-designed practice の量が Good/Less Good よりだいぶ多い。しかし 12 歳あたりで Good が逆転する。つまり violin で Great になるには幼少期に教師に鍛えられるのが重要なのではないか。逆に一定程度年をとったあとにキャッチアップしようとしても難しいのかもね。この一定程度というのが 12 歳であるあたりに violin 業界の厳しさを感じるが。
- Good 勢の練習量は 15 歳あたりから Best よりもだいぶ多い。(二割くらい違う。) そして Good の練習量は 18 歳に向けてどんどん増えていくが、そこで頭打ちになり下がり始める。一方 Best 勢の練習量(Good 勢より少ない)は 18 歳を過ぎても下がらない。ボンクラ努力家が 18 で自分の限界に気付かされる様を見るようで気の毒。
音楽の世界は厳しいなあ・・・。
あと Best と Good が同じ学校の同級生で、Less Good は別の学校という事実にも趣があるね。Good/Great と Less Good の差はほとんど peer pressure で説明できそう。実力をつけたいなら厳しい環境に身を置くのが大事だね。
プログラマ、音楽家と比べるとほんとに平和なものでよかったな・・・と思う。
- Best でなくてもふつうに生活できる。
- 幼少期にプログラミングを教えてくれる teacher とかいない (少なくとも一般的でない). Teacher-designed practice もあんましない。
Best と Good を violinist を区別するものが (12 歳以降の) practice でないならなんなのか。幼少時の訓練なのか「才能」なのかそれとも他のなにかなのかはよくわからないが、音楽のように成熟した世界ですらこれなのだから、プログラマみたいに雑で新しい世界でそこそこの成果を出したいなら、いくらでもやりようはあるのだろうね。まあ AI 方面はアカデミアという超成熟した過当競争世界にも見えるけれど。