Book: Measure What Matters

Amazon.com: Measure What Matters: How Google, Bono, and the Gates Foundation Rock the World with OKRs (9780525536222)

OKR, 世間ではどういうものという話になってるんだろうな、という興味から読んだ。

この本は OKR の威力を過大評価している気がする。自分は OKR はそんなにたいしたものではないと思っているが、一方でその大したことなさが良さだとも思う。

会社に入ってはじめて OKR というものを知った時、プロジェクトマネジメントとかこんな雑でいいんかいな、と思ったのを思っている。世間では inception deck だのなんだのがもてはやされていた頃である。たぶん、世の中には OKR よりすごくでかっこいい目標管理/ビジョン制定の方法論は色々ある。一方そういうのを機能されるのはたぶんすごく大変で、できずにくじけることも多いのではないか。

OKR にはそういう大仰な難しさはあまりない。目標 (O) とその実現手段(KR)を箇条書きにして、四半期に一回見直しましょうね。組織のツリーにあわせて O や KR を breakdown しましょうね。なるべく定量的かつ客観的にわかる目標にしましょうね。以上。みたいなかんじ。

目標は単なる箇条書きだし、チェックも四半期に一回。しかも stretch とかいって達成できないのが前提になっているゴールも多い。定量的というけれど、製品開発だと "機能 A を ship する" みたいな KR になることもしばしばある。目標の雑さゆえ、あとちょっとで ship できそうだから 0.7 くらいにしときますか・・・など評価もしゃきっとしないことがある。雑。

雑さゆえ、いまいちな OKR を運用することはいくらでも可能である。目標設定を雑にもできるし、評価を雑にもできる。なので OKR というプロセスの強制力によって色々なことがみるみるよくなる、みたいなことはおきない。

この雑さには2つの含意がある。

含意そのいちは、仮に OKR の運用がいまいちであっても被害が大きくないこと。OKR のよくあるいまいちさは 1. 定量的/客観的でない 2. 野心的でない 3. まとはずれである だとおもう(本のなかでもそんな話をしている。)一歩さがると, 1 と 2 はプロセスが形骸化しているということで、3 はゴールがよくないということ。

形骸化したプロセスは迷惑な存在だが、OKR はその雑さゆえに形骸化しても被害がすくない、四半期に一回くらい、やれやれ・・・みたいな気分になるだけ。給料への影響もない。これがすごい厳密に定義された官僚的なプロセスだったら、そしてプロセスというのは厳密に定義されがちだが、つらいだろうと思う。官僚的で形骸化してる。いやすぎる。

含意そのには、強制力はないが nudge にはなっているということ。四半期に一回くらい自分の仕事の目標を考え人目につくところに書き出してみるのは、経験的にまあまあ意味がある。この仕事って結局なんなんだっけ、みたいのを見直すことになるから。

OKR は top-down で voluntary なので、組織の木の下の方にいくとやっていないところもある。たとえば今のチームはやってない。でも本をよんだら OKR してもいいんじゃないかという気がしてきた。組織図を2つか3つのぼるとやってる。年に一回大きなリリースをする世界とは相性が悪いのではないかとも思うが、Intel みたいなハードウェアの会社だってやってたわけだから理由としては弱いかな。そしてチームはともかく個人でやってる人は割と少ない印象。まあ部門によるのかもしれない。自分はずっと周縁的なチームなのでわからん。ガチ勢はどうやってるのだろうね。


自分のチームがやってないせいもあり、自分は勤務先の OKR をそんなに良く機能しているとは思っていなかった。ただ本を読んで、機能している部分もあると見直した。

まず、ちゃんとトップダウンにやっている。おおむね上の方ほどちゃんとやっている。O はともかく KR はだいたいが定量的である。スコアも公開されている。あの部門ちゃんとしてるなだとか、勢いあるなとか、いまいちなことやってるなとか、でかいこと言ってたけど全然できなかったのね・・・とか色々わかる。自分のような下々が(たとえば本を読んで)よし自分のチームだけでも OKR やるぞ!とかいってボトムアップにやって組織の壁にぶつかる・・・みたいなのがこの手のプロセスにありがちなことなので、上のほうがやっているのは良い。

透明性。OKR は基本的に公開されている。公開されないドキュメントに書いてるだけのダメなチームとかもあるが、少なくとも上のほうはちゃんと見える。(株価に響くようなデリケートな情報は伏せ字になっているが、それは妥当だと思う。)これがそんなに自明じゃないのは本で指摘されるまで気にもしなかったけど、たしかに経営者とか上の方の目標とかがポエム以外で communicate されていた会社で働いたことなかったな。まあ、このくらいは透明度あってもいいんではないかと思う。

給料と連動していない。こんな雑なものに連動されたら困るわと思ういっぽう、最初に働いた2つの会社はそういえば完全に形骸化してる目標管理を口実に給料を決められてムカついた記憶がある。当然 stretch goal みたいのを持つ気はまったく起こらず、従ってあれらが従業員(自分)を empower するとは一ミリも思えなかった。勤務先の OKR はそういう性質はなく単に背筋を伸ばすツールなので、ちょっとめんどくさいけどやれと言われればやる気にはなる。というか今となってはむしろチームでちゃんとやってほしいな、とすら思う。

勤務先の OKR に感じる不満は組織の下の方への浸透度が低くやってない人が多いせいで組織全体の透明性などが達成できていないこと、当事者としてもいまいち継続するための動機づけが弱いことで、OKR そのものの aspirational な性格は今の所損なわれていない気がする。

みんなやればいいのにと思う一方、全社員が OKR を強制されている会社というのもそれはそれで嫌な予感がある。なにかをやらされるのは官僚化や形骸化につながるから。他のよい枠組みに乗っているならそれはそれでいいだろうし、組織の方向性、成果や責任みたいのがはっきりしないのだとしたらそれは組織の練度が足りないということで、きっと OKR を押し付けてもうまくいかないよね。良くも悪くもそんなに強い力はない気がする。


そういえば、どういう目標を持つのが良いかという話はあまり詳しくされない。一方で The North Star などのジャーゴンがとびかうあたりに The Lean Startup くらい読んでるよねという空気もあった。