Book: The Curse of Bigness
The Curse of Bigness: Antitrust in the New Gilded Age: Tim Wu
でかい企業の独占はよくない、という話の発端である Shaman Acts や、それをうけた 20 世紀序盤から中盤にかけての anti-trust 活動、70 年代のシカゴ学派によるカウンターから現在までの歩みを紹介しながら、いまの anti-trust は元々の精神を失っている、取り戻そうと語る。
Tim Wu にしては薄い本だけれども、The Master Switch で anti-trust のハイライトである AT&T を研究し The Attention Merchant でインターネット企業を研究した流れでみると自然なかんじはする。自分は昨今のテック企業をめぐる言論には mixed feeling だけれども、でかすぎてダメというのはそうだろうなと思う。
Forbes には否定的なレビューが載っているが、全部読んで振り返ると自分は Tim Wu に分があると思った。自分が左よりで Tim Wu ファンであるバイアスは差し引く必要があるが。
テック企業は anti-trust の例外と見られることがある。つまり、たとえば Microsoft を分割しなかったけれどその後に新興企業が出てきて世代交代したし、それまでも The Innovator's Dilemma で語られているように世代交代の disruption は続いてきた。競争が機能してるんだから anti-trust みたいな規制いらなくね?という主張。
でも、たとえば Microsoft が勃興できたのは IBM が anti-trust を巡って政府と戦った名残で IBM PC がやたらオープンになっていたおかげだし、同様にそのあとのインターネット企業がウェブでやんちゃできたのも Microsoft が anti-trust のリスクに備えて無茶しなかったからという面はある。
もうひとつは、やはりインターネットおよびウェブというのは電話以来百年ぶりの超特大イノベーションで、PC market を独占していた Micorosoft が氷山の一角にあるパイを食べたくらいではまだまだ余裕で巨大な市場が残っていただけという気が個人的にはしている。その超巨大市場がようやく飽和して現代があるのではないか。
そして企業に悪意というか強欲さがあろうがなかろうが anti-trust のない市場には monopolize の tendency みたいなものがあり、それはある意味で自然の摂理というかエントロピーみたいなものなので、人類の平和のためになんらかの秩序が必要で、 anti-trust はそのための発明なのだ・・・という説明を Tim Wu はしていないけれど、自分はそう納得した。
それにしても Anti-Trust というアイデアは全然自明じゃないよね。こんなものが 19 世紀に提案されていた事実にはアメリカの民主主義の力を感じざるを得ない。最近のアメリカには失望つづきだったけれど、そうした歴史や Tim Wu のような書き手の存在はさすがと思う。