(Audio)books of The Year

順不同。

Hit Refresh

Microsoft の CTO, Madella 氏による新しい MS の話および自伝。

すごく教科書的なモダンテック企業の社長だった。Emphasy, Inclusion, "Growth Mindset"... 半分くらいは、よその会社の偉い人、たとえば Sheryl Sandberg や Sundar Pichai が言っても全く違和感ない内容。ただそれが網羅的なのが印象的ではある。すごく勉強してるのだろうなあ。CS 出身で、大学の勉強を振り返りながら「(P-NPのような)計算量の理論は経営の役に立つ」みたいな話をしており、思わず応援したくなる。

ビザの話もちらっとでてきて、外国人仲間(?)としては MS パートより自伝パートの方が楽しめた。

Who Says Elephant Can't Dance?

テック社長読み物を続けて読みたくなり、IBM 社長版。15 年以上前の古い本。

Gerstner はコンサル出身のブロの雇われ社長で白人。Nadella とは対照的だ。いまのテックサークルはファウンダー/エンジニア信仰が強く、プロ経営者は嫌われている。自分も Gerstner は IBM をテック企業から受託開発企業にしてトドメを刺した悪人だと思っていた。

けど、そう単純でもないと心を改めた。なにしろ当時の IBM はガチで潰れかかっており、しかも分社化という筋悪の再建策を準備していた。Gerstner は少なくともその会社を立て直し大幅に延命した。インターネットの津波にも(受託開発という形で)対応した。

受託開発への舵によって、結局テック企業としての IBM は死んだと自分は外野として一方的に信じているけれど、他に良い方法があったのかはわからない。2000 年前後は実際にシステムのウェブ化みたいのが今より大きなビジネスで、すごく流行っていた。ACM の月刊誌すら企業の「IT化」みたいな話ばかりして、プログラマの仕事はオフショアされるから上流いっとけ、みたいな雰囲気だった。この流れを逃さなかった、というかほとんど作り出したといってもいい影響力は、評価されるべきなのだろうな。

そして Gerstner が持ち込んだ社内制度、たとえば年功序列に対する成果主義みたいのは、今のアメリカ企業はみんなやってることだ。そういう改革の話をよむと、アメリカの会社も昔は平和なもんだったのだなと思う。時折現れる旧 IBM 文化の奇妙なエピソードは、今読むと Catch=22 ばりに狂ってて面白い。時代をかんじる。

勤務先が傾いたとき、こんな雇われプロ社長がやってきたら自分は変化についていけるだろうか。景気に守られたゆるふわの皮が剥がれた酷しい世界で生き延びられるのか。こわいね。

など、予想に反して Hit Refresh よりだいぶ面白かった。

Option B

経営者読み物…ではないけれど。

Sandberg 個人のエピソードが孕むやや覗き見的な面白さを別にすると、基本的には Learned Optimism の話だった。

Learned Optimism

これは活字で読んだ。心理学者が書いた、楽観は学べるぞ!という話。MindsetGrit に連なるモダンアメリカ根性論の始祖と言っても良い。認知療法との同時代性もある。

著者は「学習的無気力」の実験(犬に電気を流すやつ)が行われた現場に立ち会い、無気力が学べるなら楽観だって学べるのではと optimism の研究に邁進する。Option B で紹介される 3P (permanence, pervasiveness, personalization) はその主要な成果。

語られる楽観理論開発のエピソードがいちいち面白い。実は学習的無気力の実験には続きがあったという話、保険のセールスパーソンを楽観性ベースで採用したら退職率が減った話、大統領候補の演説を分析したら楽観ワードを多く使っている候補者が勝っている、などなど。さすがモダン根性論の始祖はちがうで。若干眉唾なのもあるが、そのへんは時代の荒々しさということで大目に見たい。

だいぶ前の本だけど古びないユニークさがある。個人的にはかなり面白かった。ただ自分は割とモダン根性論者なのでバイアスはあるかもしれない。

How to Be Happy at Work

見も蓋もないタイトル。基本的にはお金や世間体に負けてはいけないよ、目的や使命感を持って生きような、という話。アメリカ、お金の重圧はなんか日本より厳しい気がする。格差社会だからかもしれないが…あるいは自分が友達のいない外国人だからか...

特別面白い本ではなかった。が、仕事について考える機会にはなる。

Start with Why

目的(Why)がないとだめなんだよ、というはなしで、ある意味上の本と呼応している。主張はわかるが、全編通じ結局は Apple サイコーという話で、そうかそうか…という気分。Apple サイコーという主張自体に特段異論はないが、その話はもう飽きたよ…神を信じよって言われてる気分だよ…自分そっち系じゃないんで...。

ただマーケティングというかメッセージングの本として読むとそこまで食傷感はないかも知れない。実際、著者はマーケティングのひと。

Made to Stick

人の記憶に残るメッセージとは、という話。けっこう面白かった。しかし皮肉なことにまったく中身を覚えていない。たぶん今の自分には縁のない中身だったため。じゃあなぜ読んだのかと言われても困るけど。人に話をする機会が多い人向け。

Smarter Better Faster

エピソードは面白いが役に立たないというジャーナリストが書いた自己啓発本の典型とでも言う内容で、まあエピソードは面白かった。FBI はアジャイルで組織横断犯罪記録データベースを作り、MVP の時点で役に立ったぞ(ここで息を呑む誘拐犯追跡エピソード)だからおまえらもアジャイルしろ!みたいな。(この記事など参照。あと SEI が case study を出している。うさんくせー...)

どうでもいい本だったけど、軽薄な自己啓発が読みたい気分を満たしてくれたのでまあまあ満足。でもやっぱり自己啓発本ってちょっと狂ったくらいの実践者やアカデミアが自説を熱く書いたやつのほうが、多少粗があっても説得力あるね。

Humble Inquiry

リーダーシップな立場にいる人達は下々に対し謙虚さと共感を持って話を聞かなければいけないよ、その技法がこの humble inquiry だよ、というはなし。リーダーの皆さんには読んでいただきたいいい話だった。下っ端なのになぜ読んだかというと著者 Edgar E. Schein のファンだからです。ただ下っ端には前作 Helping のほうが良いかも。

Actionable Gamification

人為的に仕事や勉強のやる気をだせないかと思い読んだ。著者は Gamification という語をユーザのエンゲージメントを高める手法という広い意味で使っており、要するにそういうテクニックを色々紹介する本。サービス屋さんにはいい本だろうけど、自分自身を欺く目的には大掛かりすぎた。テクニック自体はよく整理されていて感心した。

なお著者は元ネトゲ廃人らしく、時折ゲーマーらしい洞察を感じる。

Irresistible

これは逆に、テクノロジーが人々を虜にしすぎてやばいと警告する本。この文脈ではネトゲもソーシャルメディアも同じ枠に入れられるのだな、と思いながら読んだ。現代版ゲーム脳みたいな話。

ゲーム脳って当時はトンデモな扱いだったけど、ネトゲやスマホ、ソーシャルメディアにメッセージングなどが人々の大きなマインドシェアを占めている昨今はあまり馬鹿もできなくなったなと思う。

The Attention Merchants

人の心を虜にするメディアと広告の関係について、19世紀の新聞広告の誕生やパリの張り紙スパム時代からテレビのリアリティショウや MTV を経て今日のソーシャルメディアまで歴史を紐解く。The Master Switch に負けない濃密な書きっぷりはさすが Tim Wu.

インターネット広告業界の人は特に興味深く読めると思う。自分たちの歴史的位置づけがわかる。

The Inevitable

WIRED 編集長 Kevin Kelly による、テクノロジー最高だし不可避だから身を預けてこうな、という話。これがシラフで出せた 2016 年は平和だったね。今読むと能天気すぎる感。ただ正直ちょっとは kool aid がないとテクノロジ産業死んでしまうので、こういう楽観的なのもぼちぼち読んでいきたい。まあ、いい話です。

White Trash

ここから先は The other side of America 研究。

Poor White などとよばれ先の選挙で一気に注目を集めた demographic, 実は入植当時に労働力として半奴隷的立場でイギリスとかから連れ込まれた貧乏人や犯罪者などが先祖で、その人々が権力者にうまいように使われたり反抗したりしつつ各時代を生き延び今日に至っているのだよ、という歴史をすごい詳しく書いている。

面白かったけど、自分のアメリカ歴史リテラシーがなさすぎて厳しかった。まずは小学校の教科書を読んだほうがよさそう。

The Unwinding

アメリカの価値観が綻んでいく現代を、その綻びによって苦い思いをした市井の人々の半生記を通じて覗きみるという趣旨。穀物燃料で一山当てようとした男、民主党議員に憧れ秘書を目指した男など、登場人物はアメリカっぽくて雰囲気はあった。ただ全体的に散文的な構成なのとサブカルチャーを含むアメリカ基礎知識不足で自分にはやや厳しめ。

Stranger in Their Own Land

バークレーの社会学者が南部の価値観を理解するために一年間ルイジアナで密着取材する、という話。タイトルは南部人が昨今感じている疎外感を表したもの。

石油産業に好き放題荒らされているルイジアナの現状のやばさを描きつつ、それでも共和党を支持し続ける住民たちの話を聞く。その矛盾を支える人々のメンタルモデルを理解しようと著者は取材を重ね、さいごに保守層の "deep dream", 内的世界を描写してみせる。

すごくよくかけていた。自分はこうした南部保守層の心理にはより添えないけれど、外国人が(控えめに言って)疎まれる温度感への理解は深まった。うっかり南部に観光旅行とかすることはなかろうな。メシはうまそうだが…

著者の Arlie Russell Hochschild は昔読んだ The Managed Heart も良かったし、自分の中では評価高し。

Dreamland

アメリカの opioid crisis について書いた本。

Pain management という患者本位医療を目指したはずの movement が製薬産業の強欲と噛み合って依存性のある pain killer が人々にばらまかれていく一方、メキシコから真面目でイノベーティブなヘロイン商人が流入して産地直送高品質低価格のヘロインで従来のしょぼい麻薬を駆逐しミドルクラスにまで顧客層を広げ、結果 pain killer 中毒になった罪のない市民がヘロインに手を出すようになる…という展開が fascinating.

本としてはめちゃめちゃ面白かったが事実としてはグロい。自分や家族が知らずにうっかり opioid 系 pain killer を処方されヤク中になったらと思うとだいぶ恐ろしい。ヘルニアとかにすら処方されるケースがあるらしいし。

そしてアメリカは gun だの war だの drag だの人殺し要素が日常的すぎ。飼い慣れされた民族の一人としては、自由だの独立だの言った結果がこれじゃしょうもないな…という気分を禁じ得ない。

Nomadland

経済的に困窮して住居を失った末に RV(キャンピングカー)で暮らす人々の話。多くが60代以上の年寄りで、季節労働で日銭を稼ぎながら有料無料のキャンプ場や Wall Mart の駐車場などを転々として暮らす。オンラインにコミュニティがあったり、砂漠の街で年次オフ会みたいのも開催されているらしい。

季節労働として年末の Amazon の倉庫労働がハイライトされている。Amazon は Camper force と銘打って holiday season に倉庫付近の RV park を借り切り国中から RV 労働者を集めているらしい。そんな年寄りに過酷な肉体労働させるのは酷い話に思えるが、少なくとも賃金未払いとかはないので人気の職場なのだとか。うへえ…

著者はこの RV コミュニティに密着すべく中古の RV を買い、砂漠の集会に参加したり Amazon で働いたりしている。すごい。実際に数人の RVer と親しくなり、その人々の人生が話の軸となる。なので距離のあるドライな読み物ではなく、パーソナルな色が強い。世の中の厳しさに胃が痛むが、描かれる人々のたくましさは良い。

RV, 町中で普通に見かけるし近所にも RV の溜まっている通りがある。あの人たちはなんなのだろうなあと思っていたので、まあまあ謎が解けた。

なお RV の住人はほとんどが白人だという。それは有色人種と違い racist に襲われたりする心配がないからだとか。自分たちは困窮しても RV 暮らしにはなれないのだな。特になりたくはないけれど、意外なところに racism の影を見てしまった。


去年に続き Audible のおかげで炊事などの家事や通勤の時間が読書タイムになり、慌ただしい日常が少し知的に潤った。ただもうちょっとこまめに記録を取らないと中身をすっかり忘れてしまってだめだね。

技術書: Information Theory: A Tutorial Introduction, Learning TensorFlow, Python Machine Learning, Deep Learning. Programming in Haskell, Kotlin in Action. ジム読書がなくなった4月以来激減。やむなしだが悩まし。

2016.