Election

大統領選が終わった。感想などを書いてみる。

ベイエリアに住んでいる日本人はけっこう動揺しているのではないかと思う。自分たちの多くはビザや永住権で滞在しており、市民ではない。だから移民政策の影響を受ける。Trump 次期大統領の発言を真に受けるなら最悪国外退去や口座凍結もありうる。実際にそういうことが起こる確率は低いと思うけれども、万一起こると人生大打撃なので心配したくなる気持ちはわかる。今までそういう心配は皆無だった。ビザの期限切れはあるけれど、それは deportation とは違うからね。

政策上の不安のほかに、外国人差別の感情がおもったより根強いと思い知らされた薄寒さもある。ベイエリアなんてインド人と中国人が最大勢力みたいな地域。自分が差別される様をいまいち想像できない。でも Trump に投票したのはアメリカ人の約半数。そのすべてが差別主義者ではないにせよ、一方で敗れた Hillary 派の全てがリベラルというわけでもない。あわせて何割かは潜在的な差別主義者かもしれない。実際に racist として振る舞うのはそのまた数割なのだろうけれど。ただ差別される側としては人口の1割でも差別主義者がまじってたら十分イヤじゃん?

別の不安。自分のような大手テック企業社員は平均的アメリカ人の何倍も給料をもらっている。Sillicon Valley は Wall Street と違い、経済危機の際に公的資金に助けられたなどのわかりやすい粗がない。だからあからさまなバッシングは少ない。でも inequality があるのも事実。職に困っているアメリカ人が仕事を奪った外国人めと恨みたくなる気持ちも少しはわかる。人種差別だけでなく、こういう class division も感じずにはおれない。

といった事情から、自分やまわりの日本人は標準的アメリカ人および日本在住日本人よりも神経質になっているように見える。外国人という身分固有の面倒くささと言える。


新聞などでは Trump 躍進の理由として "less-educated/non-educated/working class white" の支持を挙げている。自分にはこれが一番のナゾ。Less-educated white, 高卒白人というのがどういう人たちなのか、まったくわからない。転勤で引っ越してきた身だと面識のあるアメリカ人はみな仕事の同僚。そして職場であるテック企業の製品開発部門に less-educated な人はいない。仮に正式な学位がなくても独習や業界経験で educated と区別がつかない人柄になっていると思う。

アメリカ生まれアメリカ育ちなら、その高卒白人とも何らかの形で接点があるのだろう。親戚がいるだとか、かつて less educated 地域に住んでたとか、メディアやサブカルチャーを通じて目にするとか。自分は一貫して大卒ばかりの会社でしか働いていない都市生活者だったけれど、日本の less educated な人々の姿なら少しは想像できる。人生を通じて何かしらは接点があったから。アメリカの less educated white はまったくわからん。たまに新聞記事を読むくらいじゃ足しにならない。

ベイエリアも二時間ほど車を走らせて郊外に向かえば Trump 支持の地域に入る。旅行なんかでそういう町に立ち寄ると、学位の有無はさておきたしかに白人が多い。というか Asian がいない。Latino もちょっと少ない。中華料理屋の客に一人も中国人がいなかったりする。そして油淋鶏だと思って頼んだメニューがチキンカツの甘いソースかけだったりする。この町の生活を自分はまったく想像できない。California は農業国だし、あたりには畑や牧草地も多い。たぶん農業か畜産業をやってるんだろうと推測はできる。でもそれ以上の想像ができない。ステレオタイプすらない。

自分の勤務先では、diversity への配慮から差別問題の理解を深めなさいねと推薦図書などを紹介したりする。その推薦図書は、たとえば黒人の思想家がマイノリティーとしての苦悩や怒りを綴った本だ。そういう本を読んでもいまいちピンとこなかった。そもそも差別をしている側、すなわち less-educated white について何もわかってなかったのがピンとこない理由の一つだなと今更ながら思い至る。理解しようとする順番が間違っていた。

どうにか身の危険を冒さずに less-educated white について知る方法はないかとおもっていたら、さっそく NYTimes が推薦図書リストを公開していた。一冊くらい読まねばなるまい。


国外脱出など。自分は今のところ特にそういう気はない。Muslim や undocumented immigrants のように激しく攻撃されている身の上だったり物事が思ったより悪くなったら考えた方がいいのかもしれないけれど。まだそんな気にはなれない。まあ本気で考えてる人はそんなにいないでしょう。さすがに。

わざわざ日本から引っ越してきた理由というのは人それぞれだろうけれど、大きく現実的な損得勘定と思想的なものの二つに分類してみたい。損得勘定は、たとえば給料がいいとか天気がいいとか。選挙の結果をうけ、アメリカで外人プログラマをやる利得の期待値は少し下がったように感じる(リスクが大きくなったから)。結果として損得勘定の見通しが黒から赤になる人は少しはいるかもしれない。

思想的なものというのは、シリコンバレーで働くぜ!的な理想や憧れみたいなもの。自分は昔からアメリカテック企業に憧れがあったし、その延長でシリコンバレー的な価値観を重んじている。そしてシリコンバレー的、というかアメリカのテック企業の価値観は、様々な形でアメリカリベラルの価値観や理想を体現したものだ。でかい会社だと多国籍でグローバリゼーションだからもうアメリカ関係ないでしょと思う人もいるかもしれない。でもグローバリゼーション自体がリベラルな価値の一部だし、多国籍に展開して何をしてるかといったらアメリカ的価値を売り込んでるわけじゃん。それで嫌われたりもしてるじゃん。

だから自分はシリコンバレーや巨大テック企業が国家を超えていくという一部の論調を信じていない。一部アメリカ人には自覚がないっぽいが、そこにある理想はどう見てもアメリカ的(アメリカのリベラル的)なものだ。アメリカ的過ぎてむかついたり疎外感を感じることもある。それでも全体としては、自分は同じ理想を信じている。国外脱出は、象徴的な意味で反進歩的な勢力に自分の理想を挫かれるように感じる。気に入らない。

などと自分の価値観を見直すきっかけになったのはよかった。

まあ理想だなんだとカッコつけてられないほど事態が悪くなったらさっさと日本に逃げ帰ってどこかの会社に泣きつき雇ってもらう所存だけれども、遠くの心配事はさっさと忘れて前に進む方が厚顔能天気でシリコンバレーっぽいし、良い意味でアメリカっぽいと思う。郷に入りては郷に従え。